【過去問解説】第64回 実技1 問3

2025年11月6日

こんにちは!今回は気象予報士試験 第64回 実技1 問3を解説します!

◇模範解答

初期時刻~12時間後: 北北東へ 約25ノット(5ノット刻み)

12時間後~24時間後: 北東へ 約15ノット

◇解説

図6(初期時刻~12時間後の予想図)および図8(12~24時間後の予想図)では、台風第AA号(九州南部の低圧中心)の予想位置が示されています。初期時刻(8日21時)の中心位置から、9日9時(12時間後)にはほぼ北北東方向(北寄り東向き)に移動しており、距離にして約300海里ほど進んでいます。さらに9日21時(24時間後)には、そこから北東方向へ約180海里進んだ位置に中心が移動しています。従って移動速度は前半12時間で約25ノット、後半12時間で約15ノット程度と見積もられます。この減速の傾向は、台風が九州から本州方面へ進む中で地形の影響(九州や四国の山地に伴う摩擦や構造変化)や、温帯低気圧化に伴う移動経路の変化が影響した可能性があります。図5の地形図からわかるように、九州から中国地方にかけて高い山地が存在するため、台風の北上時にこれらと相互作用して速度が落ちたと考えられます。また後半は北東に進路を変えており、進行方向に対して上空の流れとの関係で速度が変化したとも考えられます。


◇模範解答

山陰沖(さんいんおき:本州日本海側の山陰地方沖合)

強い上昇流低層での風の収束(地形や寒冷渦、台風中心の直上ではないことに留意)

土砂災害:土壌雨量指数、浸水害:表面雨量指数、洪水災害:流域雨量指数、表面雨量指数

◇解説

① 予想図(図6右下:地上気圧・12時間降水量分布図)によれば、8日21時~9日9時の累積降水量が特に多いのは九州北部から中国地方、日本海西部にかけての領域です。最大値は局地的に前12時間で140mm強にも達する予想となっています。この中で降水「強度」が最も強まるエリアを判断するには、降水の発生要因となる上昇流の強さを見る必要があります。図6左下(700hPa鉛直流予想図)を見ると、山陰沖(山陰地方の沖合、日本海中部)のあたりに-209 hPa/hという顕著に大きな上昇流の極大が解析されています。一方、同じ時間帯の対馬海峡付近や中国地方の陸上にも上昇流域はありますが、そこまでの強い値は見られません。また、図7下(850hPa相当温位・風予想図)では、山陰沖で南寄りと北寄りの風がぶつかって収束していることがわかります。この低層の風の収束により強力な上昇流が生み出されていると考えられます。以上から、降水強度が最も強まると予測されるのは山陰沖となります。選択肢(九州北部陸上、中国地方陸上、対馬海峡、山陰沖)の中でこれに該当するのは「山陰沖」です。

②①の考察結果から、大雨の要因として重要なのは「強い上昇流」「風の収束」であることがわかります。山陰沖の事例では、地形的な強制上昇(山による降雨増強)は関係していませんし、上空の寒冷渦(寒冷低気圧)の存在も直接の降水強度には関与していません。また台風の中心真下でなくとも、遠隔地でも降水は強まる可能性があります(実際、今回の大雨予想域は台風AA号の中心から離れた前線周辺です)。従って選択肢の中からは「強い上昇流」(イ)と「風の収束」(ウ)を選ぶのが正解です。図6図7に示されたように、収束による上昇流が大雨の直接要因である点を読み取ることがポイントでした。誤って「地形」(山陰沖は海上なので該当せず)や「寒冷渦」(今回強雨域に直接影響する寒冷渦はなし)、「台風中心」(離れていて直接の強雨ではない)を選ばないよう注意が必要でした。

③「キキクル」とは気象庁の大雨警報等の危険度分布の愛称で、土砂災害・浸水害・洪水について、それぞれ災害発生の危険度を地図上に5段階表示するものです。各種災害の危険度評価には、対応する雨量指数が用いられます。具体的には、土砂災害の危険度には地中の含水状況を表す**「土壌雨量指数」**、浸水害(内水氾濫)には地表付近の雨量の強さを表す「表面雨量指数」洪水害(河川氾濫)には流域全体での雨量蓄積を表す「流域雨量指数」と「表面雨量指数」(おもに中小河川)を主に用いて評価します。設問ではこの指標名を問うていたため、それぞれ漢字で正確に記す必要があります。


◇模範解答

700hPa:下降流、850hPa:周囲に比べ相対的に低相当温位の空気

乾燥貫入(ドライエア侵入)

(③)

(④) 温帯低気圧化に伴い、低気圧の北東側で気圧傾度が急激に大きくなるため、強風域が低気圧中心の北東側へと拡大する。

◇解説

① 図9および図13(断面図)によると、九州の西から関東の東にかけて広がる広範囲な乾燥空気の領域が確認できます。この領域では上空の湿数(湿潤度を表す指標)が大きく、すなわち空気が非常に乾燥しています。700hPa高度の鉛直流を図8や図13で確認すると、この乾燥空気域に対応する部分ではほとんど上昇流がなく、むしろ下降流が卓越しています。換言すれば、九州西~関東東の広い範囲で700hPaの鉛直風は下向き(負の値)となっており、積極的な対流活動が抑制された subsidence 領域になっているわけです。【図13(下)】にも該当断面の鉛直流が描かれており、シアーラインの西側にあたる広い範囲で下降流(正の鉛直速度)が示されています。一方、同じ領域の850hPa面の相当温位分布(図9下段など)を見ると、相当温位が周囲に比べ低い空気が広がっていることがわかります。相当温位は大気の持つ熱と水蒸気量を示す指標で、値が低いほど冷たく乾燥した空気を意味します。従って九州西~関東東にかけての下降流域は、850hPaでは相対的に低相当温位の乾燥空気塊から成るといえます。これは台風の南西側~西側に位置する乾燥空気の流入を示唆するもので、温帯低気圧化の典型的な兆候の一つです。

② 次に、この乾燥した空気の流れがどのような大気の流路(コンベアベルト)に該当するかを考えます。温帯低気圧では一般に3つの気流(暖気コンベアベルト、寒冷コンベアベルト、乾燥貫入)が知られています。暖気コンベアベルトは温かく湿った空気が低気圧の南側から上空へと巻き込む流れ、寒冷コンベアベルトは冷たい空気が低気圧の前面北側から地表付近を南向きに流れ込む流れです。乾燥貫入(ドライエア侵入)は対流圏上層~中層の非常に乾燥した空気が低気圧の背後(後面)から下層へと下降しながら巻き込む流れを指します。今回、九州西~関東東に及ぶ空気は850hPaで低相当温位、700hPaで下降流という特徴から乾燥貫入(ドライエアの下降流入)そのものです。選択肢に当てはめると「ウ(乾燥貫入)」が正解となります

③ 台風AA号の温帯低気圧化に伴い、前線構造が生じます。温帯低気圧では温暖前線・寒冷前線が発達し、台風から変わる際にはしばしば閉塞(前線面の閉合作用)が起こります。図8・図9および図13を総合すると、9日21時時点で台風由来の低気圧はほぼ閉塞段階に達しています。【図13(上)】の風場を見ると、500hPa付近に強風軸(ジェット気流の軸)があり、地上低気圧の中心はその強風軸より北側に位置しています。これは低気圧が上空の寒冷低気圧から離れて前線帯に取り込まれた閉塞の状態を示唆します。さらに温位場を見ると、低気圧中心の後面の方が前面より高温(高相当温位)になっています。これは温暖型閉塞のパターンです。つまり、閉塞点から伸びる前線は北東方向に温暖前線、南西方向に寒冷前線となり、閉塞点自体は温暖前線と寒冷前線の接続する位置です(閉塞前線の一部と見なせる)。実際の解答では、与えられた図面上にこれら前線を滑らかに描き込むことが求められたと考えられます。ポイントは、相当温位の高低(温度帯)の境界風向のシア(風向きの変化)および地上の気圧の谷を結び合わせて前線を引くことです。今回の場合、閉塞点は低気圧中心の東北東あたりで500hPa強風軸と温位集中帯の交点付近に位置し、そこから北東に伸びるのが温暖前線、南西(南側)に伸びるのが寒冷前線となります。加えて、閉塞前線が温暖型か寒冷型かを判断するには、閉塞点を挟んで前面側と後面側の気温を比較します。今回、後面(低気圧の後ろ側=南西側)の空気の方が暖かい(高相当温位)ため温暖型の閉塞と判別できます。以上を踏まえ、解答としては「閉塞している」「温暖型閉塞前線が形成されている」といった内容と、前線の概略位置を記述すれば満点となります。図上に描画する設問であれば、これらを実線で正確に記入することになります。

(④) 温帯低気圧化が進むにつれて、地上天気図上の等圧線の形状や間隔が変化し、強風域の広がりにも変化が現れます。図6(地上実況図)を見ると、9日9時の段階では低気圧の北東側で等圧線間隔が広がり気圧傾度が小さい部分がありますが、9日21時にはその部分の等圧線間隔が狭まり気圧傾度が急になっています。これは低気圧の北東側で寒気と暖気の気圧場が急激に接近し、前線帯がよりシャープになったことを意味します。この結果、強風域が低気圧中心の北東側へと大きく広がることになります。実際、図8(24時間後地上予想図)では、東北東方向に等圧線が詰まり強風を示す矢羽根が広範囲に描かれているはずです。言い換えれば、「閉塞前線の北側で気圧傾度が大きくなり、地上低気圧中心の北東側に強風域が拡大する」というのが答えるべき内容です。なお、回答時には「北東側」を「低気圧の東側」等といった表現でも減点にはならないと思われますが、気圧傾度の大小と強風範囲の広がりに言及することが採点のポイントでした。


以上です!独自解説とAIを組み合わせ解答・解説を作成しています。訂正・ご意見あればコメントやご連絡いただけると幸いです。皆で最高の独学環境を作り上げていきましょう!

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