こんにちは!今回は気象予報士試験 第64回実技1 問1を解説します!
(1)解説
◇空欄①〜⑧の模範解答一覧
- ①:-(強さ表現なし)
- ②:21ノット
- ③:東北東
- ④:50ノット
- ⑤:海上暴風(警報)
- ⑥:弱い
- ⑦:晴れ
- ⑧:1(時間)
◇各空欄の解答と判断根拠
空欄①:「-」(台風の強さ表現なし)
図1の地上天気図では、九州南部の台風第AA号に「強い」等の強さの表現が付いていません。中心気圧は988hPaで、最大風速も10分間平均で約25m/s未満と推定され、気象庁の階級では「強い台風」に達していないためです。実際、台風の強さは最大風速33m/s(64ノット)以上で「強い」、44m/s以上で「非常に強い」と表現されますが、本台風はそれ未満だったため強度欄は空白(「-」)となっています。このことから空欄①には「-」(表現なし)が適切です。
空欄②:「21ノット」(台風の移動速度)
図1によれば、台風第AA号は東シナ海から北東方向へ進んで九州南部に達しており, 移動速度は約21ノットと読み取れます。
空欄③:「東北東」(台風の進行方向)
台風第AA号の進行方向は東北東(北東寄り)と判断されます。図1の地上天気図でENEの表記があることから上記の通り進んでいることがわかります。
空欄④:「50ノット」(24時間以内に達すると予想された最大風速)
台風第AA号は温帯低気圧化に向けて風速がやや強まる予想で、「EXPECT MAX WINDS 50KT WITHIN NEXT 24HOURS」と表記があることから、今後24時間以内に最大風速50ノット(約26m/s)に達すると見込まれています。したがって空欄④は「50ノット」です。
空欄⑤:「海上暴風」(警報)
鹿児島県では台風第AA号の接近に伴い「海上暴風警報」が発表されています。ST(Storm Worning)の表記から判断できます。
空欄⑥:「弱い」(驟雨の強度)
鹿児島で観測された降水現象は「弱い驟雨」と判断できます。図1の鹿児島の天気記号には「しゅう雨」を示す記号が描かれており、これは対流性のにわか雨(驟雨)であることを意味しますが、同時に雨脚がそれほど強くないことから「弱い驟雨」と表現されています。実際、図2の衛星赤外画像を見ると、九州南部付近の雲域は台風中心付近に比べてあまり発達していません。台風の南西側にあたる鹿児島付近では下降流も混在し、降水の持続・強度は限定的だったと考えられます。
空欄⑦:「晴れ」(チェジュ島の天気)
全雲量が8分量で6を示している。0~1は快晴、2~6は晴れ、7~8は曇りを示すことから「晴れ」と判断できる。

空欄⑧:「1」(時間)
名瀬(奄美大島)では現在天気の情報から観測前1時間以内に雨があったことが示唆されます。図1の名瀬の現在天気欄には、直前まで降水があったが観測時には止んでいることを示す記号(雨のち止)が記録されています。この記号は一般に「過去1時間以内に降雨があった」場合に用いられるものです。したがって空欄⑧には「1」(時間)が該当し、「観測前1時間以内に雨があった」旨を補完します。

(2)解説
◇模範解答
①ジェット気流の位置(緯度): 北緯43°付近(130°E上)。
根拠: 台風北側の雲域の北縁に細長い筋状の上層雲(Ciストリーク)が見られるため。
②上層トラフの位置: 朝鮮半島西岸付近。
◇解説
図2の気象衛星赤外画像を見ると、九州南部にある台風第AA号の北側に広がる雲域の北端付近に、細長い筋状の巻雲が東西方向に延びています。このような**Ciストリーク(上層の細長い雲筋)**は、通常、200~300hPa付近のジェット気流の下流側(北側)に形成される特徴的な雲です。したがって、東経130°線上では、この筋状の雲が存在する緯度でジェット気流が通っていると推定できます。画像から判断すると、その緯度はおよそ北緯43°前後と見積もられます。ジェット気流は狭い帯状の強風軸であり、その位置で雲が滑らかな筋状になる(シアーストリークが現れる)ことを根拠に、北緯43°付近と答えています。なお、問題文は「1°刻みで答えよ」と指示しており、43°より前後1度程度のずれ(北緯42°~44°)は許容範囲とされています。
次に、上層トラフの位置についてです。トラフ付近では対流圏上層で寒気が南下し、下降流により雲の少ない乾燥域が現れる一方、トラフの前面(東側)では上昇流により雲が発達します。図2を見ると、朝鮮半島付近の雲の分布に明瞭な変化があり、朝鮮半島西岸付近よりも西(大陸側)は雲が少なく乾いたエリア、東側(日本海側)は雲が広がっています。この雲域の境界が朝鮮半島西海岸付近に位置していることから、上層トラフは「朝鮮半島西岸付近」にあると判断できます。選択肢の中では「朝鮮半島西岸付近」がこれに該当します。
(3)解説
◇模範解答
気象衛星赤外画像: 発達した対流雲は台風中心付近と北~東側に偏り、その他の領域にはほとんど見られない。
700hPa鉛直流: 上昇流の極大域が中心付近ではなく台風の北東側に位置し、南西~北西側では主に下降流となっている。
850hPa気温: 台風の高温域が中心付近になく東側に偏在し、台風西~北側には低温域が見られる。
◇解説
この設問では、台風第AA号が温帯低気圧に変わりつつあることを示す非対称な構造に着目します。典型的な真夏の台風であれば、対流雲や上昇流、暖気の分布は台風中心を取り巻く対称的な構造を持ちます。しかし、本問の台風AA号では、それらが偏った分布を示しています。
まず、雲の分布(衛星赤外画像)についてです。図2を確認すると、台風AA号の中心の南側から西側にかけて深い雲がほとんどなく雲頂温度も高めであるのに対し、中心の北側から東側にかけて積乱雲が偏って発達しています。具体的には、発達した対流雲域が台風中心の北~東方向に集中し、その他の象限(特に南西側)では雲が途切れて晴天域も見られます。これは通常の台風眼や対流雲が環状に分布する対称形とは異なり、温帯低気圧化する過程で台風の対流構造が一方向に偏っていることを示唆します。要因として、台風の南西側に乾燥した空気が流入したり、上空の強い風により対流が東側に押しやられていることが考えられます。
次に、700hPaの鉛直流(Vertical velocity)の分布です。図3(下段)の700hPa鉛直流解析図では、負の鉛直流(上昇流)の領域が台風中心の北東側に位置しているのがわかります(負の鉛直流域は網掛けで表示)。一方、台風中心付近や南西~北西側では鉛直流が正の値となり、つまり下降流が優勢になっています。同様に、地上天気図(図1)における台風中心の南西側で天気が「晴れ」と報告されている(例えばチェジュ島の実況が晴天)ことも、南西側に下降流域・乾燥域があることを裏付けています。典型的な強い台風では対流活動が中心を取り囲み上昇流は中心近傍に集中しますが、本ケースでは上昇流の最大領域が中心から離れて北東側に移動し、反対側の南西~北西に下降流域が広がっている点が非対称構造として重要です。このパターンは、台風が中緯度のトラフに差し掛かり温帯化する際によく見られるもので、台風の西側で乾いた空気が下層に押し出され対流が抑制される一方、東側では前線的な強制上昇が発生している状況と一致します。
最後に、850hPaの気温分布についてです。図3(下段)の850hPa気温・風解析図を見てみると、台風AA号付近の等温線パターンに特徴的な歪みがあります。台風中心付近に本来あるはずの顕著な高温域(暖気核)がはっきりせず、代わりに高温域は台風の東側に偏って存在しています。例えば850hPa面で+20℃を超えるような暖気は中心の東~南東側に広がり、逆に台風の西側から北側にかけては気温の低い領域(冷たい空気)が見られます。このように暖気核が中心からずれて片側に寄っているのは、温帯低気圧に見られる前線帯の構造に似ています。典型的な台風では中心を取り囲むように暖かい空気が存在し、同心円状に気温場も高温域を形成しますが、本ケースでは暖気の偏在と寒気の侵入が起きており、これは台風が温帯低気圧化して前線帯を伴い始めている兆候と解釈できます。
以上3点の特徴はいずれも、「台風AA号が対称な暖気核構造を失い、非対称な構造(偏った雲と降水、偏った上昇流、偏った暖気)」になってきていることを示します。このような変化は、台風が中緯度の環境に入り温帯低気圧に変わる過程で典型的に現れるものです。
(4)解説
◇模範解答
500hPa渦度の極大値: +195×10^-6/s
極大点の方向: 台風中心の北西
◇解説
図3(上段)の500hPa高度・渦度解析図を観察すると、九州南部付近(ちょうど台風第AA号が位置するあたり)の上空に渦度の高い領域があります。正渦度の極大値は等値線と数値ラベルから約+195×10^-6/sであることが読み取れます(単位は10^-6/sで表記。プラスの符号も付けて正渦度であることを示します)。この極大渦度域は、地上の台風中心と比較するとやや北西側に位置しています。図3上では台風中心の位置に「XXAA」と記されており、その真上より少し左上方向に渦度の山(極大点)が描かれていることから「北西」(8方位)と判断できます。距離的には台風中心から100km以上離れているため、「真上」ではなく方位を答えるルールに従い北西としました。
この結果は、台風AA号の上空に500hPaのトラフ(渦度極大を伴う上層擾乱)が接近していることを意味します。通常、台風などの下層低気圧の西側から北西側に上層トラフが迫ると、渦度が重なりあって温帯低気圧への変成が進みます。本ケースでも台風中心の北西上空に顕著な正渦度域があるため、24時間以内に温帯低気圧に変わるという予報と整合的です。
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