こんにちは!今回は気象予報士試験 第63回 実技1 問3を解説します!
(1)解説
◇模範解答
① 雲底の高度:960 hPa(±10 hPa)
等値線等の名称:乾燥断熱線、等飽和混合比線
② 自由対流高度:870 hPa、浮力がなくなる高度:450 hPa、雲頂の気温:-24℃
◇解説

①雲底高度(空気塊の持ち上げ凝結高度)とは、1000hPa(地表面付近)の空気塊を乾燥断熱的に持ち上げていったときに飽和に達して雲ができ始める高度です。エマグラム上で求めるには、地表(1000hPa)における気温と露点温度から出発します。具体的には、気温に対応する乾燥断熱線と、露点温度に対応する等飽和混合比線をそれぞれ1000hPaから上へ辿り、交わるポイントを探します。この交点の気圧が持ち上げ凝結高度(LCL)となります。館野の1000hPa(地表)での気温・露点を見ると、気温24℃前後、露点約9℃でした。この空気塊を持ち上げると、乾燥断熱線に沿って温度は下がり、同時に混合比は一定のままでは露点も下がっていきます。両者が出会う点を読むと約960 hPa付近となりました。従って雲底の高度は960 hPa程度と見積もられます(エマグラム読み取りの誤差で950 hPa前後と読んでも可)。
この雲底高度を求める際に使用した等値線は、乾燥断熱線と等飽和混合比線の2つです。問題では「等圧線と等温線を除くすべての等値線等の名称を漢字で答えよ」とあるため、「乾燥断熱線」「等飽和混合比線」と両方記載する必要があります。
②自由対流高度(LFC)とは、空気塊が持ち上げ凝結後もさらに上昇を続け、自らの浮力で自由に上昇し始める高度を指します。館野のエマグラムでは、LCL(960hPa)で雲ができた空気塊はなお外気温より暖かい状態だと、そのまま上昇を続けます。空気塊温度線(湿潤断熱に沿う)と環境大気温度線が再び交わるまで上がれるわけですが、館野のデータではLCLから少し上昇した約910 hPa付近が自由対流開始の高さでした。
そして浮力がなくなる高度、すなわち積雲が対流で上昇できる限界の高度(平衡高度、雲頂高度)を求めます。これは上昇する空気塊の温度(湿潤断熱線に沿う)と環境の温度(実線)との差がゼロになる点です。館野の sounding では、上空に強いインバージョン層等は無く、空気塊は相当上層まで昇りました。およそ450 hPa付近で空気塊温度が環境温度と等しくなり、それ以上は浮力を失って上昇が止まると推定されます。問題では50 hPa刻みでとあるので「450 hPa」で良いでしょう。
この高度を雲頂高度とみなした場合、そのときの気温が雲頂の温度です。450 hPa付近の気温をエマグラムで読むと**約 -24℃**でした。したがって雲頂の気温は -24℃となります。以上、(1)②の答えは「自由対流高度:870 hPa、浮力がなくなる高度:450 hPa、雲頂の気温:-24℃」です。
(2)解説
◇模範解答
高度:910 hPa、相対湿度:50%
◇解説

図7の相対湿度の鉛直分布を見て、最も乾燥している高度を答える問題です。エマグラム上では、実線(気温)と破線(露点温度)の間の隔たりが大きいほど相対湿度が低く乾燥しています。館野のデータでは、下層(1000~800 hPa付近)は気温と露点の差が小さく湿潤、中層~上層にかけて差が大きくなっています。特に約910 hPa付近から露点が急激に下がり始め、850~800 hPaにかけてかなり乾燥しています。相対湿度を具体的にプロットした図も与えられていれば数値が読めますが、ここではエマグラムからおおよその高度と湿度を推測します。
混合比=水蒸気の質量 / 乾燥空気の質量で表されます。したがって、求める相対湿度は、
5.5÷10.5≒0.52
0.52×100=52(%)
解答は10%刻みですので50%ということになります。高度:910 hPa、相対湿度:50%と答えるのが模範解答です。もし850 hPa付近と判断した場合でも、許容範囲としては誤差10hPaなのであまり差はありません。大事なのは下層と上層の間に乾燥層が存在することを読み取る点です。館野では自由対流高度の直上、850~700 hPa付近に乾燥層があり、これが後述の現象に関与しています。
(3)解説
◇模範解答
① 鉛直シアー
② マルチセル
③ 蒸発、④ 昇華、⑤ 冷却(※③と④の順不同)
◇解説
①館野上空の環境についての文章穴埋め問題です。まず風の鉛直分布に関する部分(①)と(②)についてです。図7右側には風向・風速の高度プロファイルが示されています。760 hPaより上層では概ね西南西の風55~60ノット、850 hPaより下層では南南西の風45~50ノットが吹いており、その間に風向・風速が大きく変化する層があることが読み取れます。高度760~850 hPa付近で風向がSWから SSWに変わり風速もやや弱まっており、明瞭な鉛直風のシアーが存在します。このように上下で風向風速の異なる層が接している状態を「鉛直シアー」と呼びます。従って空欄①には「鉛直シアー」が入ります。
②このような強い風の鉛直シアーが存在する環境下で積乱雲が発生すると、複数のセルが次々と発生・組織化しやすくなります。一般に上下の風が大きく異なると、積乱雲が傘状に広がる方向が刻々と変わり、隣接する新たな対流セルを誘発することで多重セル構造の雷雲群が形成されることがあります。これを「マルチセル型」の積乱雲群と呼びます。文中の(②)にはカタカナでとあるので「マルチセル」が正解です。マルチセル型の雷雨は単一の積乱雲より寿命が長く、移動が遅い場合は次々と降水が降り注ぎ大雨の原因にもなります。
後半の空欄(③)(④)(⑤)は、下層が乾燥した環境での積乱雲発生時に起こりやすい現象に関する記述です。館野のエマグラムで示されたように、下層(LFC付近より下)は比較的乾燥しています(湿数が大きい)。このような環境では、雲から降下する降水粒子が雲底を出た後、乾いた空気と触れて蒸発しやすくなります。また氷粒のまま落下したものは融解せず昇華(固体から気体への直接変化)することもあります。降水粒子の蒸発や昇華はその粒子の周囲の空気から気化潜熱を奪う(熱を奪って冷却する)プロセスです。その結果、降水粒子周辺の空気が冷却され、密度が増して一気に下降する下降流(ダウンドラフト)を強化します。下降流が地表まで到達すると、冷たい空気は周囲に吹き出し突風(ガストフロントやダウンバースト、場合によっては竜巻の誘発)をもたらすことがあります。
以上の物理過程から、空欄③と④には「蒸発」と「昇華」、空欄⑤には「冷却」が入ります。蒸発も昇華も空気を冷やす効果があり、どちらが先でも下降流強化には寄与するため、設問でも③と④の順序はどちらでも正解とされました。大事なのは、乾燥した環境下では降雨の蒸発冷却で冷気が生成され、強い下降流~突風の原因になるという点です。
以上です!独自解説とAIを組み合わせ解答・解説を作成しています。訂正・ご意見あればコメントやご連絡いただけると幸いです。皆で最高の独学環境を作り上げていきましょう!
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