【過去問解説】第63回 実技1 問5

2025年11月22日

こんにちは!今回は気象予報士試験 第63回 実技1 問5を解説します!

◇模範解答

地上気圧:陸上のエコー域付近は相対的な高圧部となっている。
850hPa気温:陸上のエコー域付近は相対的な高温域となっている。

◇解説

【図9】地上実況図(5月1日18時)と【図10】850hPa解析図によれば、強い降水エコーがある陸上付近の気圧場・気温場に特徴的なパターンが見られます。地上ではエコー域付近が相対的な高圧部になっています。通常、積乱雲による局地的な激しい降水があると、その降水の冷却効果で周囲より寒冷な空気(冷気塊)が雲下に溜まり、密度が高く重いため局所的に高圧となります。これはメソハイ(雷雨性高気圧)と呼ばれる現象で、対流系の後方(冷気池)に生じるものです。今回、陸上のエコー帯付近が高圧部となっているのは、この降水による冷気の押し出しで局地的に圧力が上がっていることを示唆します。

一方、850hPa面ではエコー域付近が周囲に比べ相対的な高温域となっています。対流雲の発達域では、凝結に伴う潜熱の放出で中層の空気が暖められ、局地的な暖気核(温度正異常)が生じます。これは対流セル上部~中層にメソロー(温低圧部)を形成する原因にもなります。問題文では850hPaで「高温域」と表現されていますが、これは積乱雲の組織化した対流系に伴い、中低層で周囲より暖かい空気塊が存在していることを示しています。実際、図10の850hPa解析図には、エコー帯のある陸上付近に等温線の膨らみや暖色域が見られ、周囲より850hPa気温が高い領域が確認できます(=相対的な温度山)。この高温域と地上の高圧部の組合せは、典型的なスコールライン(対流性降水帯)の鉛直構造とも一致します。すなわち、上空では暖気による正の浮力が、下層では冷気による局地高圧がそれぞれ生じている状態です。

◇模範解答

70 km/h(エコー域の東進速度、10km/h刻み)
10分(御前崎到達から通過までの時間、5分刻み)

◇解説

【図11】レーダーエコー合成図(5月1日18時)では、北緯35.0°東経137.8°付近から南西方向へ伸びる帯状の強雨エコーが描かれています(図中の塗りつぶし部分が降水強度20mm/h以上のエコー域を表す)。このエコー域は問題文にある通り形状と強さを保ちながら一定の速さで東進しており、18時40分にその東端が御前崎に達しました。レーダー図上で御前崎の緯度(約北緯34.6°付近)と同じ線上に沿って、エコー域東端から御前崎までの距離を測ると約47kmあります。これが40分間(18:00~18:40)で移動したことになるので、速度は

47km÷(40/60)h≒70.5km/h

となります。解答は10 km/h刻み指定のため70 km/hが正解です。この速度計算では、レーダー図の縮尺(緯度1°が約111km)を用いて距離を算出し、時間経過から時速を求めています。70 km/hは非常に速い移動速度で、エコー域が比較的短時間で東へ駆け抜ける性質を示しています。これは後述するスコールラインの典型的特徴であり、停滞せず移動性が高いことを意味します。

次に、エコー域が御前崎に到達してから通過し終わるまでの時間を求めます。エコーの幅(東西方向の厚み)がどれくらいかを推定する必要がありますが、問題文では「東端が18:40に御前崎に到達」とのみあり、通過終了時刻は明示されていません。ここでは「通過時間」とは、エコー帯の先端が観測点に到達してから後端が抜けるまでの経過時間と解釈できます。エコー帯は18:40に先端到達、その移動速度は約70 km/hですので、仮にエコー帯の幅が10~12km程度であれば、後端が過ぎるまで約10分前後と見積もられます。実際、御前崎の時系列(図12)において降水や風の変化が顕著だった時間幅から判断しても約10分程度で通過しています。従って解答は5分刻み指定に則り「10分」となります。高速で移動するエコー帯ゆえ、ある地点での影響時間が短いことが読み取れます。この点も後述のように線状降水帯(バックビルディング型)のように停滞する豪雨とは異なり、スコールライン的な性質を示唆する重要な情報です。


◇模範解答

18時40分、突風率2.1(前10分間平均での突風率最大時刻とその値)
気温: エコー域が到達すると急下降し、しばらく低い状態が続いた後に上昇した。
気圧: エコー域到達時に急上昇したが、その後は下降しほぼ上昇前の値に戻った

◇解説

図12は御前崎における気象要素の時系列図(5月1日17時~23時)で、気温・気圧・風向風速などの時間変化がプロットされています。設問(3)では、この図から(i)突風率最大の時刻と値、(ii)18:30~20:00にかけての気温と気圧の経過の特徴を読み取ることが求められました。順に解説します。

(3-①) 突風率最大の時刻と値:
「突風率」とは瞬間風速(最大風速)を平均風速で割った比率を指します。例えば平均風速10.0 m/sのとき瞬間最大風速が20.0 m/sなら突風率=2.0となります。図12では10分間隔で平均風速と瞬間最大風速がプロットされており、その差が最も大きい(=突風率が最大)となる時刻を探します。エコー域通過に伴い強い風が吹いた18:40前後に注目すると、18:30~18:50頃にかけて平均風と瞬間風の差が急激に拡大しています。特に18時40分には平均風速と瞬間風速の差が最大となっており、図から平均風速約11.0 m/sに対し瞬間風速約23.0 m/sと読み取れます。このときの突風率は23.0/11.0 ≒ 2.1となります。問題の指示通り0.1単位に四捨五入すると2.1で良いでしょう。したがって「18時40分、突風率2.1」が模範解答となります。これはエコー帯先端が御前崎を直撃した際に平均風速の約2.1倍の瞬間風が発生したことを意味し、非常に強烈な突風(ガスト)が発生したことを示しています。局地的なダウンバーストやガストフロントの通過により、平均風との比率で2倍以上もの瞬間風が観測されたと考えられます。

(3-②) 気温の経過と気圧の経過(18:30~20:00):
図12の気温曲線と気圧曲線から、エコー域通過前後で顕著な変化を読み取ります。まず気温については、エコー域東端が到達した18:40頃に気温が急降下しています。実際、18:30から18:40の10分間で気温がそれまでの約20℃近辺から一気に数℃低下し、15℃前後まで落ち込みました。その後19時台いっぱいは低温状態(約15℃前後)が持続し、20:00にかけてようやく上昇に転じ元の値に近づいています。つまり「エコー域が到達した時点で急激に(気温が)下降し、低温がしばらく持続した後に上昇した」という経過になります。これは解答例の通り35字程度でまとめられています。エコー域に伴う冷たい雨降り出しと下層への冷気流入で気温が急激に下がり、その冷気(冷たいアウトフロー)の影響がしばらく続いた後、エコー域通過後に再び気温が平常に戻っていったことを意味します。

一方気圧の経過は、まず18:30~18:50にかけて急激に上昇しているのが大きな特徴です。18:40前後にかけて海面気圧はグッと跳ね上がり、約2hPa程度の急上昇(例えば1008hPa程度から1010hPa超へ)が記録されています。これはエコー帯到達に伴い、先述の冷気の押し出しによる局地的高圧(メソハイ)が観測点を通過したことと整合します。実際、その直後の18:50をピークにして気圧は下降に転じ、その後は緩やかに低下し続けて20:00頃にはほぼ上昇前の値に戻りました。要するに「エコー域到達時に急上昇したが、その後は下降に転じ、ほぼ上昇前の状態に戻った」という40字程度のまとめになります。これは典型的なスコールライン通過時の気圧変化で、突風の前面にメソハイ圧力隆起があり、その後冷気塊が拡散していくにつれ圧力が元に戻る挙動です。冷たいダウンバーストにより一時的に気圧が急上昇し、その後時間経過とともに平常に復元する様子が読み取れます。

以上より、御前崎ではエコー域通過時に「気温の急降下・気圧の急上昇」が同時発生し、その後数十分かけて気温低下・気圧上昇分が解消されていく典型的パターンとなりました。この組合せ(急激な気温降下と気圧スパイク上昇)は、前線通過よりも積乱雲のガストフロント通過に特徴的な現象です。ちなみにもしこれが通常の地上寒冷前線通過であれば、前線面に対応して気圧は一時的に低下(気圧の谷)した後、後面で上昇に転じるのが一般的です。しかし今回は逆に急上昇しているため、地上前線の通過では説明がつきません。この点も含め、エコー域の正体を考える重要な手掛かりとなります。


◇模範解答

スコールライン

◇解説

以上の分析結果を総合すると、この降水エコー帯は「スコールライン」に該当します。スコールラインとは、中規模の強い対流性降水帯で、積乱雲が線状に組織化し、雷や突風を伴いながら比較的高速で移動する現象です。今回のエコー域もまさにその特徴を備えています。

選択肢ごとの検討を以下に示します。

  • 海風前線: 日中の海陸風によって生じる局地前線で、海風先端の収束線に沿って積雲が発達する現象です。しかし本ケースのエコー帯は広域に及ぶ強い降水帯で、時間も18時過ぎと夕方であり、典型的な海風前線による対流とはスケールも状況も異なります。また海風前線でここまでの急激な突風・広範囲の強雨帯が生じることは稀です。従って該当しません。
  • 地上の寒冷前線: 寒冷前線に伴う降雨帯であれば、移動性で突風や積乱雲を伴う場合もあります。しかし、前述したように寒冷前線通過時は前線面付近が低圧部となり気圧は谷を示すのに対し、今回はエコー通過時に気圧が急上昇(高圧)しています。これは寒冷前線というより対流セル由来のメソハイ現象です。また寒冷前線であれば広域的な風向の変化(風向シフト)が見られるはずですが、図9の地上風を見ても極端な風向変化より局地的なガスト的風が示唆されます。従って寒冷前線そのものではありません。
  • 線状降水帯: 気象庁の定義する「線状降水帯」とは、積乱雲群が次々と発生・成熟しながら同じような場所を通過・停滞し、数時間にわたり猛烈な雨を降らせるバックビルディング型の降水帯を指します。典型的には長さ50~300km、幅20~50km程度で、移動せずにほぼ同じ地域に豪雨をもたらすのが特徴です。今回のエコー帯は長さこそそれなりにありますが、移動速度が約70 km/hと非常に速く、御前崎での降雨もわずか10分程度で通過する短時間のものでした。局地的大雨を長時間もたらしたわけではなく、被害を及ぼすような集中豪雨型ではないことから、気象庁がいう「線状降水帯」には当てはまりません。
  • ブライトバンド: レーダー用語で、融解層付近で現れるリング状の強いエコーを指します。雪が融けて湿った雪片となる際にレーダー反射が強まる現象で、広域にドーナツ状の強エコーをもたらします。降水の実体は主に雪やみぞれで、位置も高度1~3km付近の等高度に出現します。問題文のエコー帯は地表付近に伸びる線状エコーであり、移動もしていることからブライトバンドではありません。ブライトバンドならば時間とともに東進することはなく、その場に固定的に現れる現象です。

以上より残る「スコールライン」が最適と判断できます。【図11】のエコー形状(幅狭く長い対流セルの列)、移動の速さ、通過時の気圧・気温変化(メソハイによる圧力急上昇と気温急低下)、突風や雷を伴った点など、いずれも典型的な中緯度スコールラインの特徴と合致します。スコールラインでは、対流セル前面の上空で潜熱暖化により局地的低圧(温度高域)、セル後方の地上付近で冷気溜まりによる局地的高圧(メソハイ)が生じる構造を持ちます。今回(1)で述べた850hPa高温域+地上高圧部の組合せはまさにこの構造です。またスコールラインは移動性が高く、寒冷前線や線状降水帯と区別されるとされています。以上の点から、「エコー域が対応する最も適切なもの」はスコールラインとなります。


◇模範解答

雷、竜巻、ダウンバースト、ガストフロント、降ひょう

◇解説

積乱雲を伴う現象で雨そのもの以外に警戒すべきものとしては、落雷(雷)突風降ひょうが挙げられます。模範解答では突風についてさらに具体例(竜巻、ダウンバースト、ガストフロント)を含めすべて列記することが求められていました。

  • 雷(落雷): 積乱雲では強い上昇気流に伴う氷晶と水滴の分離電荷により雷放電が発生します。屋外の人や高所の構造物への落雷リスクが高まるため厳重な警戒が必要です。今回もレーダーエコー強度からみて活動的な積乱雲群であり、激しい雷鳴や落雷があった可能性が高いと考えられます。
  • 突風: 積乱雲に伴う突風にはダウンバースト(下降突風)や、それに伴って冷気が広がる前縁のガストフロント、さらには竜巻などがあります。それらはいずれも瞬間的に非常に強い風をもたらし、建造物被害や吹き飛ばされ事故を引き起こします。図7の館野の大気状態を見ると下層が乾燥しており、降水の蒸発冷却で下降流が強まりやすい環境でした。実際に御前崎でも突風率2.1と記録的なガストが観測されたことから、強烈なダウンバーストやガストフロントが発生していたと推測できます。竜巻の発生も積乱雲では常に念頭に置く必要があります。竜巻は発生確率こそ低いものの、一旦発生すれば局地的に甚大な被害を及ぼすため、「竜巻注意情報」などが発表されていれば防護行動が推奨されます。総じて、雷雲接近時は暴風・旋風系の突風災害に最大限の警戒が必要です。
  • 降ひょう(ひょう・あられ): 積乱雲内の強い上昇流により水滴が氷晶化し、大きく成長した氷塊(ひょう)となって降ってくる現象です。ひょうは農作物や車・屋根を損壊する恐れがあるほか、人にも危害を及ぼし得ます。特に春季の寒気を伴う積乱雲では降ひょうの頻度が高まります。問題文では「雨以外の大気現象すべて」とあり、ひょうも見落とせません。エコー強度20mm/h以上の積乱雲では氷粒子も多く含まれていた可能性が高く、実際に降雹被害が発生した可能性もあります。

以上の「雷」「竜巻・ダウンバースト・ガストフロント(突風)」「降ひょう」がすべて解答すべき現象です。要するに積乱雲による典型的な激しい気象現象は一通り注意が必要ということになります。なお「大雨(集中豪雨)」はエコー域そのものの現象ですが、本設問では「雨以外」と明記されているため含めない点に注意します。


以上です!独自解説とAIを組み合わせ解答・解説を作成しています。訂正・ご意見あればコメントやご連絡いただけると幸いです。皆で最高の独学環境を作り上げていきましょう!

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