「空気は高い場所ほど薄くなるのだから、軽い気体の割合が増えるのでは?」「湿った空気は水分を含むのだから、乾いた空気より重いのでは?」――どちらも自然な疑問です。しかし、気象予報士試験では、この直感だけで判断すると間違えてしまいます。

第1講義では、地球大気の成り立ちと現在の組成を学びながら、高度約80kmまでの大気の混合と水蒸気が増えたときの平均分子量を理解していきます。

🌏 最初に、実際の過去問を見てみよう

🌏 この記事を読み終えるころには、この問題が解けるようになります!

次の問題を、まずは答えを見ずに読んでみてください。この記事を読み終えるころには、各記述の正誤を理由とともに説明できることを目指します。

📋 過去問チャレンジ(まずは答えを見ずに挑戦!)

第63回(令和6年度第2回)気象予報士試験/学科・一般知識 問1

地球大気の組成について述べた次の文(a)〜(c)の正誤の組み合わせとして正しいものを、下記の①〜⑤の中から 1 つ選べ。

(a) 対流圏内において、窒素、酸素、アルゴンの 3 種類の気体が乾燥空気に占める比率(体積比)は、99.9%以上となっている。

(b) 高度 80km 以下では、乾燥空気の平均分子量は高度によらずほぼ一定である。

(c) 対流圏の空気の平均分子量は、水蒸気の混合比が大きいほど大きくなる。

選択肢(a)(b)(c)
①正正正
②正正誤
③誤正誤
④誤誤正
⑤誤誤誤

1. 太陽系の中の地球と大気

太陽系の8つの惑星は、太陽に近い順に水星・金星・地球・火星・木星・土星・天王星・海王星です。地球は太陽から3番目に位置する、岩石を主成分とした地球型惑星です。

水星・金星・地球・火星は地球型惑星、木星・土星は巨大ガス惑星、天王星・海王星は巨大氷惑星に分類されます。古い教材では後者4つをまとめて「木星型惑星」と呼ぶこともあります。

同じ太陽系でも、大気の状態はさまざまです。金星は厚い二酸化炭素主体の大気、火星は薄い二酸化炭素主体の大気を持ちます。一方、地球の現在の大気は窒素と酸素が中心です。なぜ、このような違いが生まれたのでしょうか。

2. 地球の大気はどのように変わってきた?

地球が形成されたのは約46億年前。形成初期には天体衝突や内部の熱で地表が高温になった時期があり、現在と同じ大気が存在していたわけではありません。

大気の材料は地球内部や外部から供給された

地球内部の物質から水蒸気、二酸化炭素、窒素などが放出される脱ガスは、大気の形成に重要な役割を果たしました。天体の衝突による物質の供給・散逸も関係したと考えられています。初期大気の正確な組成や形成過程には研究上の不確実性があるため、単純な成分比を断定して暗記する必要はありません。

海洋の形成と酸素の蓄積

地表が冷えて液体の水が存在できるようになると、海洋と大気の間で二酸化炭素などの物質交換が進みました。さらに、酸素を発生させる光合成生物の活動が、大気中の酸素の増加に大きく寄与しました。

ただし、発生した酸素は海水中の鉄などとの反応にも使われます。酸素が現在のような割合になるまでには、長い地球の歴史が必要でした。

地球の形成約46億年前脱ガス・海洋大気と水の循環酸素発生型光合成酸素の蓄積現在の大気へ各過程は一部重なりながら進行した(時系列の模式図)
図1 地球大気の変化を理解するためのオリジナル模式図
💡 ここでの理解

現在の大気は、地球が生まれた瞬間に完成したものではありません。地球内部・海洋・岩石・生物との相互作用で変化してきたのです。

3. 現在の乾燥空気は何でできている?

大気の成分比を学ぶとき、まず押さえるのは水蒸気を除いた「乾燥空気」の組成です。

成分化学式体積比の目安
窒素N₂78.08%
酸素O₂20.95%
アルゴンAr0.93%
二酸化炭素CO₂約0.04%台(濃度は変動)
その他Ne、Heなど微量

窒素・酸素・アルゴンを足すと、78.08+20.95+0.93=99.96%。これで冒頭の過去問(a)を判断できます。二酸化炭素は微量でも温室効果に重要な気体です。古い教材にある「約0.03%」は現在の代表値として使わず、測定時点に注意しましょう。

乾燥空気の組成(体積比)窒素 78.08%酸素 20.95%残り:アルゴン 0.93%、その他の微量成分※ 微量成分は見やすさのため模式的に表現
図2 乾燥空気の主要成分。比率は概数(オリジナル図)

乾燥空気と湿潤空気は別の考え方

「乾燥空気」は、単に湿度の低い日の空気ではなく、水蒸気を取り除いて考えた空気です。一方、実際の大気のように水蒸気を含むものを「湿潤空気」と呼びます。水蒸気量は場所や時間、高度によって大きく変わるため、主成分の比率を示すときは乾燥空気を基準にします。

4. 高度約80kmまでは、なぜ組成がほぼ一定なのか

ここは過去問のひっかけに注意したいところです。高度が上がるほど空気は薄くなりますが、乾燥空気の主要な成分の割合が同じように変化するわけではありません。

均質圏では大気が混ざり合っている

地表から高度約80km付近までの領域は、一般に均質圏と呼ばれます。乱流などによる混合が働き、窒素・酸素・アルゴンといった主要成分の割合は、高度によらずほぼ一定に保たれます。したがって、乾燥空気の平均分子量もほぼ一定です。

その上空では、分子ごとの拡散や分離の影響が相対的に重要になり、気体の組成は高度とともに変わりやすくなります。約80kmは厳密な壁ではなく、目安の高度です。

「空気が薄い」と「酸素の割合が少ない」は違う

山頂では気圧が低く、同じ体積の空気に含まれる分子数が少なくなります。ただし、乾燥空気に占める酸素の割合は地表とほぼ同じです。割合(%)と、単位体積中の分子数・気圧を混同しないことが重要です。

約80kmより上:組成が変化しやすい約80km以下:均質圏窒素・酸素・アルゴンの割合はほぼ一定乾燥空気の平均分子量もほぼ一定混合比のイメージ低高度高高度※ 右側の帯は比率が変わらないことを示す模式図。実際の成分比を正確に描いたものではありません。
図3 均質圏で主要成分の混合比がほぼ一定になるイメージ(オリジナル図)
💬 📣 どくしかの心の叫び

「空気が薄くなるのに、成分の割合は変わらないってどういうこと!?」

高度が上がると、軽い気体の割合が増えそうな気がする……。でも、過去問では「高度80km以下で乾燥空気の平均分子量はほぼ一定」って問われている。ここ、めっちゃ引っかけられそう!

だから整理したいのは、「空気の量が減ること」と「成分の割合が変わること」は別という点。約80km以下では混合が効いているから、窒素・酸素・アルゴンなどの割合はほぼ一定なんだ。

ただし、水蒸気やオゾンまで一定というわけではない。問題文に「何の気体が」「どの高度で」と書かれているか、ここは絶対に見落としたくない!

5. 湿った空気は、乾いた空気より重い?

「水分を含んでいるなら、湿った空気のほうが重い」と感じませんか? 日常の感覚では自然ですが、同じ気温・気圧で比較すると、湿った空気のほうが密度は小さくなります。

理由は水蒸気の分子量にある

気体分子量の目安
水蒸気(H₂O)18.02
窒素(N₂)28.01
酸素(O₂)32.00
乾燥空気の平均28.97

水蒸気の分子量は約18。乾燥空気の平均分子量約29より小さいのです。同じ気温・気圧の空気では、水蒸気が増えると、もともとあった乾燥空気の一部が軽い水蒸気分子に置き換わります。その結果、混合気体の平均分子量が小さくなります。

数字を入れると理解しやすい

計算のため、分子数の5%を水蒸気、残り95%を乾燥空気とする仮の例を考えます(実際の典型的な水蒸気量を表したものではありません)。

平均分子量 ≒ 28.97 × 0.95 + 18.02 × 0.05
= 27.5215 + 0.901
= 28.4225

乾燥空気だけの28.97より小さくなりました。これが冒頭の過去問(c)を判断する鍵です。

さらに、理想気体の状態方程式を密度の形にすると、ρ=pM/(RT)(ρ:密度、p:圧力、M:平均モル質量、R:気体定数、T:絶対温度)となります。気温と気圧が同じなら、平均モル質量が小さいほど密度も小さくなることがわかります。分子量とモル質量は数値が対応しますが、単位の扱いには注意してください。

乾燥空気水蒸気を5%含む仮の空気28.9728.42平均分子量平均分子量水蒸気が増えると、平均分子量は小さくなる
図4 水蒸気による平均分子量の変化(オリジナル図、数値は計算例)
💬 📣 どくしかの心の叫び

「水分が増えたのに、空気が軽くなるってどういうこと!?」

湿った空気って、なんとなく重そうじゃない? なのに、同じ気温・気圧なら湿った空気のほうが密度が小さい。直感と逆すぎる……!

でも分子量を比べると、水蒸気は約18、乾燥空気の平均は約29。なるほど、軽い水蒸気が混ざることで平均分子量が下がるのか!

ここでの落とし穴は、液体の水滴が追加されるイメージで考えてしまうこと。試験で問われているのは、気体の水蒸気を含む空気の話。しかも密度を比べるときは「同じ気温・気圧」という条件が大事。これは理由ごと覚えたい!

📋 冒頭の過去問に再挑戦!

ここまで学んだ知識を使って、最初の問題をもう一度解いてみよう! 問題文と選択肢を再掲載するので、先に自分で正誤を判定してから解説を確認してね。

📋 第63回・一般知識 問1(冒頭と同じ問題に再挑戦)

第63回(令和6年度第2回)気象予報士試験/学科・一般知識 問1

地球大気の組成について述べた次の文(a)〜(c)の正誤の組み合わせとして正しいものを、下記の①〜⑤の中から 1 つ選べ。

(a) 対流圏内において、窒素、酸素、アルゴンの 3 種類の気体が乾燥空気に占める比率(体積比)は、99.9%以上となっている。

(b) 高度 80km 以下では、乾燥空気の平均分子量は高度によらずほぼ一定である。

(c) 対流圏の空気の平均分子量は、水蒸気の混合比が大きいほど大きくなる。

選択肢(a)(b)(c)
①正正正
②正正誤
③誤正誤
④誤誤正
⑤誤誤誤

💡 正誤を一つずつ確認しよう

(a) 正。 窒素78.08%+酸素20.95%+アルゴン0.93%=約99.96%で、99.9%以上です。

(b) 正。 高度約80km以下の均質圏では、乾燥空気の主要成分の割合がほぼ一定で、平均分子量もほぼ一定です。

(c) 誤。 水蒸気の分子量約18は乾燥空気の平均約29より小さいため、水蒸気の割合が増えるほど空気の平均分子量は小さくなります。

💡 正解・解説

正解は ②(正・正・誤)

①は(c)の判定が誤り、③は(a)が誤り、④は3つすべての判定が異なり、⑤は(a)(b)の判定が誤りです。

この問題は、成分比の暗記だけではなく、「混合比と高度」「水蒸気と平均分子量」の理解を確認しています。

📝 まとめ:3つの判断軸を持とう

  1. 組成:乾燥空気は窒素約78%、酸素約21%、アルゴン約0.93%。3成分で約99.96%。
  2. 高度:約80km以下では主要な乾燥空気成分の割合がほぼ一定。ただし水蒸気・オゾンなどは例外。
  3. 水蒸気:分子量は約18。乾燥空気の平均約29より小さいため、増えると平均分子量が下がる。

地球大気の形成史は、現在の空気が当たり前のものではないことを教えてくれます。一方、試験問題を解くときは「何の割合か」「どの高度か」「同じ温度・気圧で比べているか」を丁寧に確認していきましょう。

参考資料・出典

図1〜4は本記事のために作成した模式図です。科学的概念の理解を目的としており、観測データを直接描いたものではありません。

【気象予報士試験講義No.1】地球大気の成り立ちと組成を基礎から解説

どくりん


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